「この会社、自分が倒れたらどうなるんだろう」。
60代に入った社長が、ふとそう考える瞬間があります。
息子は都会で別の仕事に就いている。
社員に継がせようにも、そこまでの覚悟を求めるのは酷な気がする。
かといって、廃業は取引先にも社員にも申し訳が立たない。
この記事では、後継者問題を「まず何から手をつければいいのか」という一点にしぼり、生成AIを使って社長の頭の中にある仕事を洗い出す方法を紹介します。
会社名も人物も架空のものです。地方で繰り返し語られる悩みを、ひとつの例としてまとめました。
よくある状況: 従業員8名の地方の設備工事会社。社長は64歳。見積の最終判断、金融機関との折衝、主要取引先の窓口、職人の配置を、すべて社長1人が担っている。社内に、社長の仕事の全体像を知る人はいない。
後継者不在は、少しずつ改善している
意外に思われるかもしれませんが、後継者がいない会社の割合は、近年少しずつ下がっています。
帝国データバンクが約27万社を対象に行った調査によると、2025年の全国の後継者不在率は50.1%で、前年から2.0ポイント低下し、7年連続の改善となりました。
ただし、地域差は非常に大きく、最も低い三重県が33.9%であるのに対し、最も高い秋田県は73.7%と、唯一7割を超えています。
業種別では、製造業が42.4%と最も低く、建設業は57.3%でした。
そして、この調査で最も注目すべきなのは、承継方法の順位が入れ替わったことです。
これまで最多だった同族承継(32.3%)を、社員などへの内部昇格(36.1%)が上回りました。
つまり、「息子や娘に継がせる」から「社員に継いでもらう」へ、現実の重心が移っているということです。
後継者不在率(2025年):
| 区分 | 数値 |
|---|---|
| 全国の後継者不在率 | 50.1%(前年比2.0ポイント低下・7年連続改善) |
| 最も低い県 | 三重県 33.9% |
| 最も高い県 | 秋田県 73.7% |
| 製造業 / 建設業 | 42.4% / 57.3% |
承継方法の内訳(2025年速報値)
| 承継方法 | 割合 |
|---|---|
| 内部昇格(社員などへの承継) | 36.1% |
| 同族承継(親族への承継) | 32.3% |
| M&Aほか | 20.6% |
| 外部招聘 | 7.6% |
調査対象: 全国・全業種の約27万社。調査時期: 2023年10月〜2025年10月。
出典: 帝国データバンク「全国『後継者不在率』動向調査(2025年)」(https://www.tdb.co.jp/report/economic/20251121-successor25y/)
数字が示しているのは、承継は不可能ではないということです。
問題は、承継先が見つかったとしても、渡すものが整理されていないことにあります。
継げないのではなく、「何を継ぐのか」が見えない
後継者候補が尻込みする理由の多くは、能力ではありません。
「社長が何をやっているのか分からない」という不安です。
長年会社を回してきた社長ほど、判断が体に染みついています。
この客にはこの値段、この職人はこの現場、この時期には資金がこう動く。
それらはマニュアルになっておらず、社長の頭の中にしかありません。
ですから承継の第一歩は、金でも株でもなく、社長の頭の中を外に出すことです。
そして、その「言葉にする」作業こそ、生成AIが最も役に立つ場面です。
AIに社長業を棚卸ししてもらう手順
やり方は簡単です。
ChatGPTなどの生成AIに、聞き役になってもらいます。
社長が話した内容を、AIが整理して書き出してくれる形です。
プロンプト例(社長業の洗い出し):
あなたは事業承継の支援に詳しいコンサルタントです。
私は【従業員8名の設備工事会社】の社長で、【64歳】です。
会社を誰かに引き継ぐ準備として、私がやっている仕事をすべて洗い出したいと考えています。
私に質問を1つずつ投げかけて、私の仕事を引き出してください。
条件:
1. 一度に1つだけ質問する
2. 「毎日やること」「毎月やること」「年に数回だけやること」「トラブル時にだけやること」の順に聞く
3. 私が答えたら、その内容を短くまとめてから次の質問に進む
4. 全部で20問程度で終わるようにする
5. 最後に、洗い出した仕事を「引き継ぎやすい仕事」「引き継ぎに時間がかかる仕事」「社長しかできない仕事」の3つに分類した表を作る
この方法の良いところは、社長が文章を書かなくていいことです。
聞かれたことに、話し言葉で答えるだけで進みます。
音声入力を使えば、キーボードを打つ必要すらありません。
20問答え終わるころには、これまで誰にも説明できなかった社長業が、1枚の表になっています。
「社長しかできない仕事」を減らしていく
表ができたら、次にやることは決まっています。
「社長しかできない仕事」の欄に入った項目を、1つずつ減らしていく作業です。
ここでも、AIに続けて相談できます。
プロンプト例(引き継ぎ手順の作成):
先ほどの表のうち、「【主要取引先との価格交渉】」を社員に引き継ぎたいと考えています。
引き継ぎの手順を3段階で作ってください。
条件:
1. 第1段階は社員が同席して見るだけ、第2段階は社員が話し社長が同席、第3段階は社員だけ、という流れにする
2. 各段階で、社長が事前に社員へ伝えておくべきことを書く
3. 各段階が終わったかどうかを判断する基準を書く
4. 期間の目安も入れる
1つの仕事を渡すのに、数か月かかることもあります。
だからこそ、60代に入った時点で始める意味があります。
AIにできないこと
誰に会社を渡すのかという判断は、AIにはできません。
親族なのか、社員なのか、外部への譲渡なのか。
この決断は、社長自身と家族、そして専門家との相談で決めるべきものです。
株式の評価や税金、金融機関との調整といった手続きも、必ず税理士や事業承継の専門機関に相談してください。
各都道府県には、事業承継・引継ぎ支援センターという公的な相談窓口が設けられています。
AIが担うのは、専門家に相談する前の「自社の状況を整理する」段階です。
ここが整理されているだけで、専門家との打ち合わせの質は大きく変わります。
よくある質問
Q. パソコンが苦手ですが、この方法は使えますか?
A. スマートフォンのChatGPTアプリには音声入力があります。質問を読み上げてもらい、話して答える形でも進められます。
Q. 会社の内部情報をAIに入力して問題ありませんか?
A. 取引先名や金額など、外に出したくない情報は【A社】【約○百万円】のように伏せて入力してください。伏せても、仕事の棚卸しは十分に進められます。
Q. 後継者候補がまだいません。それでも棚卸しをする意味はありますか?
A. 意味があります。承継先を探す際、自社の業務と強みが整理されている会社のほうが、話が前に進みやすくなります。M&Aを選ぶ場合も同じです。
まとめ
後継者不在率は下がり続け、社員への承継が同族承継を上回りました。
選べる道は、以前より確実に増えています。
それでも渡せないのは、社長の仕事が社長の頭の中にしかないからです。
話すだけで、AIが表にしてくれます。
64歳なら、まだ十分に間に合います。
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