カスハラ対策が義務化。中小企業の対応マニュアルをAIで作る手順

仕事効率化・副業

「今月もあの人、来たの?」

事務所に戻ってきたパートさんの顔を見て、社長がそう聞きました。

返事はありません。

うつむいたまま、事務所の奥に入っていきました。

1時間以上カウンターで怒鳴られていたそうです。

これまでは「まあ、お客様だから」で流してきました。

2026年10月1日から、それが法律上できなくなります。

登場する会社に実在のモデルはありません。

よくある状況: 地方の住宅設備販売会社。従業員16名。特定の顧客からの長時間クレームが月に数回。担当者が代わるたびに同じことが繰り返される。就業規則にハラスメントの記載はあるが、対象は社内のパワハラ・セクハラだけ。相談窓口は「社長に言ってください」となっている。

何が義務になるのか

改正労働施策総合推進法と、それにともなう指針が2026年2月26日に出ました。

施行は2026年10月1日です。

カスタマーハラスメント対策が、事業主の義務になります。

まず、何がカスハラに当たるのかを押さえます。

厚生労働省の定義は3つの要素をすべて満たすもの、となっています。

職場におけるカスタマーハラスメントの3要素:
要素内容
①顧客等の言動であること
②業務の性質その他の事情に照らして、社会通念上許容される範囲を超えたものであること
③労働者の就業環境が害されること

電話やSNSなどインターネット上で行われるものも含まれます。「顧客等」には取引の相手方や施設の利用者、今後購入する可能性がある人も入ります。
出典: 厚生労働省「令和8年10月1日からハラスメント対策が強化されます! カスタマーハラスメント対策の義務化(改正労働施策総合推進法・指針の内容)」(https://www.no-harassment.mhlw.go.jp/foundation/law-amendment/)

3つすべて、というのが大事なところです。

厳しいことを言われた、で全部がカスハラになるわけではありません。

指針は「社会通念上許容される範囲を超えた言動」の例も挙げています。

要求の中身なら、そもそも理由のない要求。商品やサービスと関係のない要求。契約で想定しているサービスを著しく超える要求。不当な損害賠償の要求。

手段や態様なら、暴行や傷害。脅迫、中傷、侮辱、暴言、土下座の強要。威圧的な言動。継続的で執拗な言動。居座りや監禁。

冒頭の「1時間以上カウンターで怒鳴る」は、継続的・執拗な言動と威圧的な言動にあたる可能性があります。

判断に迷う場面も出てきます。

その場で決めるのは難しいので、線は先に引いておきます。

やらなければいけないのは10項目

指針は、事業主が必ず講じなければならない措置を10項目挙げています。

大きく4つのかたまりに分かれます。

1つ目は、方針を決めて社内に知らせること。

カスハラには毅然と対応し、労働者を守るという方針をはっきりさせて周知する。

カスハラの内容と、あらかじめ決めた対処の中身を労働者に知らせる。

2つ目は、相談体制。

相談窓口をあらかじめ決めて周知する。

担当者が適切に対応できるようにする。

3つ目は、起きたあとの対応。

事実関係を速やかに正確に確認する。

被害者に配慮した措置を行う。

再発防止の措置を講じる。

4つ目は、悪質な事案への備えと、相談者を守る仕組み。

特に悪質なものへの対処方針をあらかじめ決めて、それを実行できる体制を整える。

相談者のプライバシーを守る。

相談したことを理由に不利益な扱いをしないと定めて周知する。

あらかじめ、という言葉が何度も出てきます。

起きてから考えるのではなく、書いておけということです。

指針は具体例も挙げています。

管理監督者に対応方針の指示を仰ぐ。

できる限り労働者を一人で対応させない。

犯罪に該当し得る言動は警察へ通報する。

本社に情報共有して指示を仰ぐ。

AIに作らせるのは「たたき台」まで

16人の会社に法務担当はいません。

社長が自分でやるか、社労士に頼むかの二択になります。

ここでAIが効くのは、白紙をなくすところです。

ゼロから書き始めると、たいてい手が止まって年内が終わります。

プロンプト例(カスハラ対応マニュアルのたたき台):
中小企業向けに、カスタマーハラスメント対応マニュアルのたたき台を作ってください。

・会社: 【従業員16名の住宅設備販売会社。店舗カウンターと訪問対応がある】
・現状: 【就業規則のハラスメント規定は社内向けのみ。相談先は社長。記録は残していない】
・想定する場面: 【長時間の電話クレーム、店頭での大声、SNSでの中傷、訪問先での居座り】

次の構成で、そのまま社内に配れる文章にしてください。
1. 会社の方針(カスハラには毅然と対応し、社員を守ることを明記)
2. カスハラに当たる言動の例と、当たらない例
3. その場での対応手順(誰を呼ぶか、いつ打ち切るか、警察へ通報する基準)
4. 記録の残し方(日時・相手・内容・対応者を書く欄のひな形)
5. 相談窓口と、相談した人を不利益に扱わないこと

条文の引用は不要です。現場の人がその場で読んで動ける言葉にしてください。

出てきた文章は、必ず社労士か弁護士に見てもらってください。

AIは法令の細部を間違えます。

ただ、白紙を持って相談に行くのと、たたき台を持って「ここが不安です」と聞くのとでは、かかる時間も費用も変わります。

指針では、対策を講じるときに消費者の権利や、障害者差別解消法における不当な差別的取扱いの禁止・合理的配慮の提供義務に留意する必要がある、とも書かれています。

ここは専門家の目が要る部分です。

先に決めておくと、現場が楽になる一行

マニュアルを作るとき、いちばん効くのは「打ち切ってよい」と書くことです。

現場が耐え続けるのは、切ったら怒られると思っているからです。

「30分を超えたら店長に代わる」「同じ話が3回繰り返されたら、日を改めると伝えて終える」

この程度の線でも、あるとないとでは違います。

線を決めるのは社長の仕事です。

現場に任せると、優しい人ほど耐えます。

もう1つは記録です。

日時、相手、言われた内容、対応者。4つだけでいい。

これが溜まると、悪質かどうかを社長の感覚ではなく回数で判断できるようになります。

警察や弁護士に相談するときも、この記録がそのまま材料になります。

まとめ

2026年10月1日から、カスハラ対策は義務です。

やることは10項目ですが、要は「先に決めて、書いて、知らせておく」に尽きます。

方針を1枚。対応手順を1枚。記録用紙を1枚。相談窓口を1行。

ここまでならAIでたたき台を作って、専門家に見てもらう流れで間に合います。

最後に。

あのとき、うつむいて事務所の奥に入っていったパートさんは、翌月に辞めました。

義務化は、それを止めるための線引きです。

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