社員がAIを使わない。「使え」と言う前に社長がやる3つのこと

仕事効率化・副業

「あれ、使ってる?」

朝礼のあと、事務所の田中さんにそう聞いた。

返ってきたのは、間があいたあとの「あ、はい、たまに」でした。

たまに、というのは使っていないということです。

社長が半年前に契約したAIツールは、その月も月額料金だけが引き落とされていました。

この記事は、そこから先の話です。

登場する会社や人物に実在のモデルはありません。

地方でよく聞く話をつなぎ合わせた設定です。

よくある状況: 従業員22名の設備工事会社。社長が去年の秋にChatGPTの有料版を3アカウント契約した。使っているのは社長だけ。事務2名と現場監督1名に配ったが、3か月経っても誰も開いていない。社長は「便利なのに、なんで使わないんだ」と思っている。

社員は「反対」しているわけではない

この手の話で社長がまず疑うのは、社員のやる気です。

新しいものを嫌がっている、面倒くさがっている、そう見えます。

ですが、社員に理由を聞くとだいたい別のことを言います。

「何に使えばいいのか分からない」

「間違ったことを書かれたら、責任が自分に来る」

「触ってる時間があったら、手で打ったほうが早い」

反対ではありません。

判断がつかないだけです。

そしてこの状態は、全国の中小企業でかなり広く起きています。

調査に出ている数字は、社長の感覚とずれている

中小企業基盤整備機構が2026年3月に公表した調査があります。

全国の中小企業1万社に配り、1,647社から回答が返ってきたものです。

この中に、社内の状態を聞いた設問があります。

AI・IT導入をめぐる社内の状態:
設問「当てはまる」計
社内においてIT・AIの必要性への理解がある45.1%
従業員のITリテラシーが高い22.4%
成功事例や活用事例などの情報が十分に入手できている20.2%

調査対象は全国の中小企業10,000社、回答1,647社。調査期間は2025年11月17日〜12月12日。
出典: 中小企業基盤整備機構「中小企業のAI等の利活用に係る実態調査」(2026年3月)(https://www.smrj.go.jp/research_case/questionnaire/fbrion0000002pjw-att/202603_AI_point.pdf)

必要性は分かっている会社が45.1%。

ですが、従業員のITリテラシーが高いと答えた会社は22.4%しかありません。

いちばん低いのが「活用事例の情報が十分にある」で20.2%。

裏を返せば、約8割の会社が「自分たちに近い使い方の例を見たことがない」状態です。

社長は展示会やYouTubeで事例を見ています。

社員は見ていません。

同じ会社にいても、見ている景色が違う。

「使え」という一言では、この差は埋まりません。

やること1 「使え」をやめて、仕事を1個渡す

アカウントを配るのは、道具を配っただけです。

丸のこを渡されても、何を切るか言われなければ職人は動きません。

渡すのはツールではなく、業務です。

設備工事の会社なら、たとえばこういう渡し方になります。

「来月から、現場写真の報告メールはAIに下書きさせて。田中さんが直して送って」

業務名、担当者、いつから。この3つが入っていれば動きます。

選ぶ業務にはコツがあります。

毎日か毎週やっていて、間違えても取り返しがつく仕事。

見積の金額や、労務の書類は最初に選んではいけません。

間違いが怖い業務から始めると、社員は二度と触らなくなります。

先ほどの調査では、AIが実際に入っている業務分野の1位は総務・管理部門で68.3%でした。

製造・生産部門は34.9%で、半分ほどです。

うまくいっている会社は、現場の本丸ではなく事務まわりから入っています。

やること2 責任の線を先に引く

社員がいちばん怖いのは、AIが間違えたときに自分が怒られることです。

これは真っ当な感覚で、放っておいて消えるものではありません。

ですから、線は社長が先に引きます。

「AIが書いた文章の責任は会社が持つ。おかしかったら直して出せばいい。直し漏れがあっても、それは俺の責任だ」

ここまで言い切って、はじめて社員は触ります。

あわせて、入れてはいけない情報だけ決めておきます。

お客様の氏名、住所、口座、単価。この4つを貼らない、それだけです。

ルールを増やすほど使われなくなります。

最初はA4半分で足ります。

やること3 最初の成功を、社長以外に起こさせる

社長が「これすごいぞ」と言っても、社内には広がりません。

社長が言うことは、社員にとって「またなんか始まった」だからです。

広がるのは、隣の席の人が楽になったときです。

だから最初の1人は、社内で選びます。

パソコンが得意な人ではなく、いちばん残業している人がいい。

効果が数字で出るからです。

その人の作業時間を、始める前に1回だけ測っておきます。

報告メールに40分かかっていたのが12分になった。

この一行が、社長の説得より効きます。

調査でも、公的支援として「従業員向けの教育・研修」が必要と答えた企業は67.7%ありました。

研修を外から買う前に、社内に1つ成功例を作ったほうが早いことが多いです。

渡す業務を決めるときのプロンプト

どの業務を渡すか、社長ひとりで悩むと時間だけが過ぎます。

AIに候補を出させて、その中から選ぶほうが早い。

プロンプト例(社員に渡す最初の1業務を決める):
あなたは中小企業の業務改善コンサルタントです。
社員にAIを使わせたいのですが、何から任せるか決めかねています。

・会社: 【従業員22名の設備工事会社、地方都市】
・任せたい相手: 【事務2名。パソコンはメールとExcelの入力ができる程度】
・その人たちの主な仕事: 【請求書発行、現場写真の整理、報告メール作成、電話対応、日報の入力】
・失敗すると困る業務: 【請求金額、労務書類】

次の3つを出してください。
1. 最初にAIに任せるべき業務を1つだけ。理由も
2. その業務を任せるとき、社員に伝える言い方を、そのまま話せる文章で
3. 効果を測るために、始める前に記録しておく数字を2つ

出てきた案がしっくりこなければ、「もっと簡単なものを」と返せば下げてくれます。

最初の1業務は、拍子抜けするくらい小さくていい。

まとめ

社員がAIを使わないのは、やる気の問題ではありませんでした。

使いどころが見えず、間違えたときの責任があいまいで、身近な成功例を見たことがない。

この3つが重なると、人は動きません。

だから社長がやることも3つです。

業務を1個名指しで渡す。

責任は会社が持つと先に言う。

最初の成功を社長以外に起こさせる。

アカウントを配った日が導入日ではありません。

誰かの残業が20分減った日が導入日です。

田中さんに「使ってる?」と聞くのは、今日でやめていい。

代わりに、渡す仕事の名前を1つ決めてください。

社員にAIを使ってもらいたい方へ: YouTubeチャンネル「社長のAI参謀」では、中小企業の社長向けにAIの使い方を動画で解説しています。

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