最低賃金1,176円時代。賃上げ原資を「どの業務を減らすか」からAIで逆算する

仕事効率化・副業

「今年はいくら上がるんですか」

7月の終わり、パートのリーダーにそう聞かれた社長がいます。

ニュースで見たそうです。

社長は「まだ決まってないから」と答えました。

間違ってはいません。

ですが、目安はもう出ています。

この記事は、その目安から自社の負担額を先に出し、原資をどこから作るかをAIで詰める手順です。

登場する会社に実在のモデルはありません。

よくある状況: 地方の食品スーパー1店舗。正社員6名、パート28名。パートの時給は現在の地域別最低賃金より20円ほど上に設定している。毎年、最低賃金が上がるたびに全体を押し上げてきた。粗利は薄く、値上げは客数に直結する。

目安は7月28日に出ている

2026年7月28日、中央最低賃金審議会が答申を出しました。

都道府県を経済実態でA・B・Cの3ランクに分け、それぞれの引上げ額の目安を示すものです。

令和8年度 地域別最低賃金額改定の目安:
ランク対象目安
A埼玉、千葉、東京、神奈川、愛知、大阪の6都府県54円
B北海道、宮城、新潟、静岡、京都、広島、福岡ほか28道府県56円
C青森、岩手、秋田、高知、熊本、沖縄ほか13県56円

目安どおりに各都道府県で引上げが行われた場合、全国加重平均は1,176円、上昇額は55円(昨年度は66円)、引上げ率は4.9%(昨年度は6.3%)になります。これは「目安」であって確定額ではありません。実際の額は各地方最低賃金審議会の答申を経て、各都道府県労働局長が決定します。
出典: 厚生労働省「令和8年度地域別最低賃金額改定の目安について」(2026年7月28日公表)(https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_74920.html)

注目したいのは、AランクよりB・Cランクのほうが目安が高いことです。

Aは54円、BとCは56円。

都市部より地方のほうが、上げ幅が大きく示されています。

地方の会社にとっては、他人事の数字ではありません。

Bランクには28道府県が入っています。

去年までの感覚で「うちは30円くらいだろう」と構えていると、倍近い額が来ます。

最低賃金の人だけの話ではない

「うちは最低賃金より高いから関係ない」

そう思ったら、去年のことを思い出してください。

労働政策研究・研修機構がまとめた国内トピックスによると、最低賃金の引き上げにともなって、最賃を下回る従業員の賃金を引き上げた中小企業は45.1%ありました。

最低賃金の引き上げを受けた中小企業の対応:
項目割合
最賃を下回る従業員の賃金を引き上げた中小企業45.1%

2025年の改定時点の数値です。2026年度の話と混同しないようご注意ください。
出典: 労働政策研究・研修機構「最低賃金の引き上げで、45%の中小企業が最賃を下回る従業員の賃金を引き上げ」(ビジネス・レーバー・トレンド2026年5月号)(https://www.jil.go.jp/kokunai/blt/backnumber/2026/05/kokunai_05.html)

そして現場では、最賃の人だけを上げると別の問題が起きます。

入って3か月の人と、5年目の人の時給が並ぶ。

5年目の人が黙って辞めます。

だから多くの会社は、全体を押し上げることになる。

負担額は、最賃の人の頭数×56円では済みません。

実際には、時給者全員に近い人数を対象に計算しておくほうが安全です。

あとから足りないと分かるより、多めに見ておいて余るほうがいい。

5年目の人を据え置いて辞められると、採用のやり直しのほうが高くつきます。

先に金額を出す

計算はAIにやらせず、自分で1回だけ出します。

必要なのは、時給者ごとの現在の時給と、月の想定労働時間だけです。

目安どおりなら、自社の県はいくら上がるか。

それを全員に足したら、月にいくら増えるか。

年に直すといくらか。

ここまでは電卓で出ます。

5分です。

社会保険の会社負担も、その分だけ増えます。

正確な額は社労士に聞くとして、ざっくり1割強を上乗せしておけば見誤りません。

AIの出番は、その次です。

原資を「どの業務を減らすか」から逆算する

増えた分をどこから出すか。

値上げで出すのが本筋ですが、客数に直結する商売では簡単ではありません。

もう一つの道が、同じ人時で回す量を増やす、あるいは要らない作業をやめることです。

「無駄をなくせ」では誰も動きません。

金額を先に置いて、そこから逆算させます。

プロンプト例(賃上げ原資を作業の削減から逆算する):
最低賃金の改定で、来期の人件費が増えます。その原資を作る案を出してください。

・会社: 【地方の食品スーパー1店舗。正社員6名、パート28名】
・増える額: 【月18万円、年間216万円の見込み】
・時給者の平均時給と月の労働時間: 【1,060円、月75時間】
・値上げの制約: 【近隣に競合店があり、大きな値上げは客数が落ちる】
・パートの主な作業: 【レジ、品出し、発注、値付け、清掃、日報、シフト表作成、チラシ作成】

次の3つを出してください。
1. 上の作業のうち、時間を減らせそうなものを3つ。それぞれ「月に何時間減らせるか」の見積もりと根拠
2. その3つを実行したとき、原資のうち何割をまかなえるか
3. 残りをどう埋めるか。値上げ以外の案を2つ

現場の負担が増える案は除いてください。人を減らす案も除いてください。

最後の2行が大事です。

これを書かないと、AIは平気で「人員配置の最適化」と言ってきます。

賃上げのために人を減らすのは、順番が逆です。

出てきた案は、パート本人にぶつける

AIが出す「シフト表作成を自動化」のような案は、机の上の話です。

実際にその作業をしている人に見せると、5秒で現実が返ってきます。

「それ、もうやってます」

「それやると、月末の棚卸しが回らなくなります」

この会話ができれば、案は3つのうち1つに絞れます。

1つでいい。

月に何時間減ったかを測っておけば、来年また上がったときに同じことができます。

測るのはノートで足ります。

作業名と、かかった時間と、日付。それだけです。

まとめ

目安はA54円、B56円、C56円。

目安どおりなら全国加重平均は1,176円になります。

ただし、これは目安です。

確定額は各都道府県労働局長が決めます。

やることは3つ。

自社の県のランクを確認する。

時給者全員ぶんの増加額を、電卓で年額まで出す。

その金額をAIに渡して、どの作業を減らすかを逆算させる。

答申が各県で出るのは9月ごろ、実際に上がるのは10月です。

「今年はいくら上がるんですか」と聞かれたとき、金額を答えられる社長は、その場で「だから、ここを変えたい」まで言えます。

10月までに、まだ時間があります。

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