「うちは51人もいないから、関係ないですよね」
顧問の社労士にそう聞いて、「今は、ですね」と返された社長がいます。
今は、というのは、いずれ来るということです。
パート・アルバイトの社会保険は、会社の人数によって加入対象になる時期が決まっています。
そして自社の番は、もう日付で決まっています。
この記事では、自社がいつ対象になるのかを確認し、そのとき人件費がいくら増えるのかを先に出しておく手順を書きます。
登場する会社に実在のモデルはありません。
自社の番がいつ来るかは、もう決まっている
厚生労働省が「社会保険適用拡大 特設サイト」を出しています。
令和7年の年金制度改正で、パート・アルバイトが社会保険の対象になる企業の範囲を、段階的に広げることになりました。
広げ方は会社の人数で区切られています。
| 企業等の従業員数 | 対象になる時期 |
|---|---|
| 51人以上 | すでに対象 |
| 36〜50人 | 2027年10月 |
| 21〜35人 | 2029年10月 |
| 11〜20人 | 2032年10月 |
| 1〜10人 | 2035年10月 |
ここでいう従業員数は、フルタイムとフルタイムの4分の3以上働く人の数、つまり厚生年金保険の被保険者数です。1年のうち6月間以上、この基準を超える見込みの企業等が対象になります。
出典: 厚生労働省「社会保険適用拡大 特設サイト」パート・アルバイトの方への社会保険の適用について(https://www.mhlw.go.jp/tekiyoukakudai/)
注意したいのは、人数の数え方です。
パート全員を足した数ではありません。
フルタイムと、フルタイムの4分の3以上働いている人の数です。
先ほどの惣菜会社なら、正社員14名に、週30時間以上のパートが何人いるかを足すことになります。
ここが20人を超えているか、35人を超えているかで、来る年が3年ずれます。
法人の場合は法人全体で数えます。
店舗ごとではありません。
複数の店舗や事業所を持っていると、ここを間違えます。
1店舗15人だから対象外、ではありません。
3店舗あれば45人で数えます。
数え方が分からなければ、年金事務所に電話すれば教えてくれます。
誰が加入対象になるのか
会社が対象になったとき、パート全員が入るわけでもありません。
厚生労働省が挙げている要件は3つです。
週の所定労働時間が20時間以上であること。
学生ではないこと。
2か月を超えて雇用される見込みがあること。
ここでいう労働時間は、実際に働いた時間ではありません。
就業規則や雇用契約書に書いてある、通常の週に働く時間です。
契約が週20時間で、実際は18時間しか出ていない人も、契約が20時間なら対象になります。
逆に、契約は週19時間だが忙しい月は25時間出ている、という人もいます。
この線引きは実務でもめやすいところなので、契約書の記載を先に洗っておくのが早い。
契約書が古いまま更新されていない会社も多い。
3年前の時間数のままで、実態と合っていないことがあります。
先に金額を出す。AIを使う前に、公式の試算ツールがある
いくら増えるのか。
ここがいちばん知りたいところです。
実は厚生労働省の同じサイトに、事業主向けの試算ツールが置いてあります。
社会保険料の事業主負担分を試算できるものです。
金額そのものはこれで出します。
AIに保険料を計算させないでください。
料率は改定されますし、AIは古い数字を平気で出します。
AIに任せるのは、その手前と後ろです。
手前は、誰が対象になるかを整理すること。
後ろは、増えた分をどう吸収するかを考えることと、パートさんにどう説明するかです。
この順番は守ってください。
金額が分からないうちに社内で話すと、噂のほうが先に広がります。
対象者を洗い出すプロンプト
雇用契約の条件を並べて、AIに仕分けさせます。
名前は入れません。
AさんBさんで十分です。
社会保険の適用拡大について、自社の対象者を整理したいです。
判定の要件は次の3つです。週の所定労働時間が20時間以上、学生ではない、2か月を超えて雇用される見込みがある。
所定労働時間は契約書に書かれた時間で判断します。
【従業員の一覧】
A 週24時間 学生ではない 契約は1年更新
B 週19時間 学生ではない 契約は1年更新
C 週20時間 大学生 契約は6か月
D 週30時間 学生ではない 契約は1年更新
E 週20時間 学生ではない 繁忙期のみ2か月契約
次の3つを出してください。
1. 加入対象になる人、ならない人、判断が割れる人の3つに分けて、それぞれ理由を一言で
2. 判断が割れる人について、社労士に確認すべき点を質問の形で
3. 契約書を見直すとしたら、どの項目を確認しておくべきか
出てきた仕分けは、そのまま鵜呑みにしないでください。
使い道は、社労士に持っていく相談メモを作ることです。
「うち、どうなりますかね」と聞くのと、対象者候補の一覧を持って「この5人の扱いを見てください」と聞くのとでは、返ってくる中身が違います。
パートさんへの説明も先に作っておく
金額が出たら、次はパートさんへの説明です。
ここを後回しにすると、施行の直前に一斉に不安が噴き出します。
「手取りが減るんですか」と聞かれたときに、その場で答えられないのがいちばんまずい。
厚生労働省のサイトには、従業員向けの試算ツールもあります。
手取り額の変化と、将来もらえる年金額を試算できるものです。
数字はそれで出して、伝え方だけAIに整えさせます。
「保険料が引かれます」だけだと、損した話にしか聞こえません。
医療と年金の保障がどう変わるかまで含めて、A4一枚にする。
それを朝礼で読み上げるのではなく、渡して持ち帰ってもらうのがいい。
家で家族と相談する人が必ずいるからです。
扶養の範囲で働きたい人は、時間を減らす相談をしてきます。
そうなると、シフトの組み直しが要ります。
そこまで見越して、説明は早めがいい。
まとめ
やることは3つです。
厚生年金の被保険者数を数えて、自社の番が何年かを確認する。
契約書を見て、週20時間以上の人が何人いるかを数える。
厚生労働省の試算ツールで、事業主負担がいくら増えるかを出す。
3つとも、今日の午後にできます。
2027年10月が自社の番だとしたら、残りは1年ちょっと。
金額を知ってから考えるのと、知らないまま来月を迎えるのとでは、打てる手の数が違います。
まず、被保険者数を数えるところから。
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