「で、なぜ返せるとお考えですか」
支店長が代わってから、聞かれ方が変わりました。
前の担当者は「まあ、なんとかなりますよね」で済ませてくれていました。
元金の返済が始まる期を前に、同じ質問が来ます。
数字は資金繰り表で出せる。
ですが、聞かれているのは数字ではありません。
この記事は、その「なぜ」を1枚にまとめる手順です。
登場する会社に実在のモデルはありません。
いま、どんな会社が退場しているのか
銀行がなぜ聞き方を変えたのかは、数字を見ると分かります。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 2025年度の企業倒産 | 10,505件(前年度比3.5%増) |
| うち負債1億円未満の構成比 | 76.7%(8,062件・30年で最高) |
| 2026年上半期の企業倒産 | 5,346件(前年同期比7.1%増) |
| うち負債1億円未満 | 77.0%(4,120件) |
いずれも負債1,000万円以上の倒産が集計対象です。
出典: 東京商工リサーチ「2025年度(令和7年度)の全国企業倒産1万505件」(2026年4月8日公表)(https://www.tsr-net.co.jp/news/status/detail/1202724_1610.html)、同「2026年上半期(1-6月)の全国企業倒産5,346件」(2026年7月8日公表)(https://www.tsr-net.co.jp/news/status/detail/1203029_1610.html)
倒産の4社に3社が、負債1億円未満です。
話題になる大型倒産ではなく、21人の会社が中心だということです。
銀行の担当者は、この数字を毎月見ています。
だから「なんとかなりますよね」と言わなくなった。
意地悪ではなく、確認が必要になっただけです。
担当者の側も、上に説明する材料がないと動けません。
聞かれているのは、社長を試す質問ではなく、書ける材料の請求です。
聞かれているのは3つだけ
「なぜ返せるのか」は、ほぐすと3つの質問になります。
1つ目、なぜこうなったのか。
2つ目、何を変えたのか、あるいは変えるのか。
3つ目、それでいくら残るのか。
資金繰り表が答えているのは3つ目だけです。
1つ目と2つ目は、言葉でしか答えられません。
そして、ここを他人任せにしている社長がとても多い。
税理士が作った資料を持っていって、質問されると「そこは税理士に聞いてみます」と答える。
この瞬間に、評価が下がります。
数字を知らないことが問題なのではありません。
自分の会社で起きたことを、自分の言葉で説明できないことが問題です。
税理士は決算書を作れますが、なぜ単価を上げられなかったかは知りません。
聞かれて困るのは、たいてい1つか2つです。
3年分を1枚にする
作るのは1枚です。A4の紙1枚。
上半分に、過去3年に何が起きたか。
下半分に、これから3年で何をするか。
数字は決算書から拾えば足ります。売上、粗利率、人件費、営業利益。
大事なのは、その数字が動いた理由を1行ずつ書くことです。
「粗利率が3ポイント落ちた」ではなく、「資材が上がったぶんを、既存客に転嫁できなかった」。
この差は大きい。
前者は現象の報告で、後者は原因の説明です。
担当者が上に持っていけるのは、後者だけです。
ここをAIに手伝わせます。
金融機関に、元金返済が始まる期の説明をします。1枚にまとめたいです。
数字は私が入れます。あなたは構成と、言い方の候補を作ってください。
・会社: 【従業員21名の建設会社、地方都市】
・過去3年の状況: 【売上は3年前の水準に戻った。粗利率は3ポイント低下。原因は資材高と外注費の上昇。転嫁は一部のみ】
・今期からの変化: 【元金返済が始まる。返済額は月◯◯万円】
・すでにやったこと: 【新規の見積は資材連動の条件を入れた。単価の低い1社と取引を終えた】
・これからやること: 【既存客の単価見直しを2社。工程管理をやり直して残業を減らす】
次を出してください。
1. A4 1枚の構成案。上半分が過去、下半分が今後
2. 「なぜ粗利が落ちたか」を、言い訳に聞こえない書き方で3案
3. 「これから何をするか」を、意気込みではなく行動で書く書き方。誰が・いつまでに・何をするかが分かる形
4. 担当者から追加で聞かれそうな質問を5つ。答えにくい順に
数字は私が入れるので、空欄のまま出してください。作らないでください。
最後の2行を必ず入れてください。
AIに自社の数字を作らせてはいけません。
それを持っていったら、その場では通っても、次の期に破綻します。
4番の「答えにくい質問」を先に潰す
プロンプトの4番が、実はいちばん役に立ちます。
面談で詰まるのは、想定していなかった質問が来たときです。
「単価の見直しは、断られたらどうしますか」
「工程管理をやり直すのは誰がやるんですか」
この2つに、その場で答えられるかどうか。
答えられなくても構いません。
「まだ決めていません。9月末までに決めて、次回お持ちします」でいい。
いちばんまずいのは、その場で思いつきを言うことです。
言ったことは記録され、次回に確認されます。
逆に、期限を切って持ち帰ると、それ自体が材料になります。
9月末と言ったら、9月末に持っていく。
2回続けば、聞かれ方がまた変わります。
1枚を持っていく効果
この1枚は、審査を通すための書類ではありません。
担当者が、自分の上司に説明するための材料です。
担当者は面談のあと、社内で説明します。
そのとき手元に何もなければ、「社長はなんとかなると言っていました」としか書けません。
1枚あれば、それがそのまま添付されます。
味方を1人作る、と思ってください。
1枚は、面談が終わったら置いて帰ります。
持ち帰ってしまうと、担当者の手元には何も残りません。
コピーを1部多めに印刷しておいてください。
まとめ
「なぜ返せるのか」に答えるのは、3つです。
なぜこうなったか。
何を変えるか。
それでいくら残るか。
資金繰り表が答えるのは3つ目だけなので、残り2つを言葉で用意する。
A4の紙1枚。上半分に過去3年、下半分にこれから3年。
数字は自分で入れる。
言い回しと、聞かれそうな質問はAIに出させる。
倒産の4社に3社は負債1億円未満です。
その中に入るかどうかは、返済額の大きさより、説明できるかどうかで変わってきます。
説明できる会社は、返済が苦しくても残っています。
次の面談まで、あと何日ありますか。
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