去年の顧客名簿を開いて、社長が数えました。
今年に入って一度も注文がない先が、38軒ありました。
倒産したわけではありません。
店主が高齢になって、店じまいしたところ。息子が継がずに閉めたところ。
1軒ずつは小さい。
合計すると、去年の売上の1割です。
この記事は、名簿を「次の一手」に変える手順です。
登場する会社に実在のモデルはありません。
商圏が狭いほど、減り方が効く
中小企業庁の小規模企業白書は、人口減少と小規模事業者の関係をこう整理しています。
小規模事業者は地域に根ざして事業をしていて、商圏の範囲が狭いほど顧客数の減少が進んでいる。
そして人口減少は地方圏を中心に進む見込みで、そこに立地する小規模事業者の顧客数の減少に拍車がかかる可能性がある、と。
商圏の範囲が狭い事業者ほど顧客数の減少が進んでいること、地方圏を中心に人口減少が進む見込みであることが指摘されています。2020年版の白書のため、時点にご注意ください。
出典: 中小企業庁「2020年版 小規模企業白書」第2部第1章第1節 人口減少・少子高齢化と地域における小規模事業者(https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2020/shokibo/b2_1_1.html)
白書の言葉は静かですが、現場では38軒という形で来ます。
そして、この38軒は戻ってきません。
営業を頑張れば取り返せる、という種類の減り方ではないからです。
ただし、38軒すべてが同じではありません。
閉めた店と、まだ営業しているのに注文だけが止まった店が混ざっています。
後者は理由が別にあります。
名簿を見るときは、この2つを分けるところから始めます。
新規開拓の前に、名簿を見る
減った分を新規で埋める。
それができれば理想です。
ただ、現実には手が回りません。
大同生命サーベイの2026年4月度調査を見ると、そのあたりが数字に出ています。
| 項目 | 割合 |
|---|---|
| 取り組んでいる | 51% |
| 取り組んでいない | 18% |
| 取り組む必要がない | 26% |
| 開拓につながった方法の1位「既存顧客、取引先からの紹介」 | 58% |
従業員規模が大きいほど積極的に取り組んでおり、規模が小さい企業ほど「取り組んでいない」割合が高くなっています。
出所: 大同生命サーベイ(2026年4月度調査)。回答5,036社。同サーベイは大同生命の契約企業を中心に実施されています(https://www.daido-life.co.jp/knowledge/survey/202604.html202604.html)
目を引くのは、実際に開拓につながった方法の1位です。
「既存顧客、取引先からの紹介」が58%。
2位の自社ホームページが22%ですから、紹介が突出しています。
つまり、新しい客は既存客の隣から出てくる。
だから、名簿を見るのが先です。
名簿を3つの山に分ける
200軒を一度に見ようとすると、また止まります。
3つの山に分けます。
1つ目、今も買ってくれていて、金額が伸びている先。
2つ目、買ってくれているが、金額が落ちている先。
3つ目、今年に入って注文がない先。
手をつけるのは2つ目です。
3つ目はもう閉まっていることが多く、1つ目は放っておいても回ります。
1つ目を放っておくのは、少し勇気が要ります。
ですが、伸びている先は理由があって伸びているので、こちらが動かなくても続きます。
落ちている先には理由があります。
他社に取られたか、客が減ったか、扱う商品が変わったか。
そこを聞きに行くのが、いちばん近い一手です。
落ちている先を探すのに、細かい分析はいりません。
去年の売上と今年の売上を並べて、割り算するだけです。
7割を切っている先に印をつける。
エクセルが苦手なら、この作業もAIに渡せます。
AIに渡すときは、名前を消す
名簿をそのままAIに貼ってはいけません。
取引先の名前も、担当者名も、住所も外します。
必要なのは、番号と、業種と、金額の推移だけです。
取引先の売上推移を貼ります。次にどこを訪問するか、順番を決めたいです。
社名は伏せ、番号で扱っています。
・当社: 【地方の食品卸。従業員13名。営業は2人。訪問できるのは週に10軒まで】
【データ】
No / 業種 / 2年前 / 昨年 / 今年(8月まで)
01 / 飲食店 / 240万 / 210万 / 95万
02 / 小売店 / 180万 / 185万 / 130万
03 / 飲食店 / 90万 / 40万 / 0
(以下続く)
次を出してください。
1. 「伸びている」「落ちている」「止まっている」の3つに分類
2. 「落ちている」先のうち、訪問の優先度が高い順に10軒。金額の大きさと落ち幅の両方を見て判断し、理由を一言で
3. その10軒に行くとき、最初に聞くべき質問を3つ。売り込みではなく、状況を教えてもらう聞き方で
4. 「止まっている」先について、訪問する前に電話で確認すべきこと
3番の「売り込みではなく」が効きます。
これを書かないと、AIは提案トークを作ってきます。
落ちている先に売り込みに行くと、たいてい断られて終わりです。
聞きに行くと、次が見えます。
聞いた話は、その日のうちに1行で残します。
「弁当の販売をやめた」「店長が代わった」「近くにスーパーができた」。
これが20軒分たまると、地域で何が起きているかが見えてきます。
白書を読むより早い。
紹介をもらう一言も、先に決めておく
開拓につながった方法の1位が紹介、という数字を思い出してください。
紹介は、待っていても来ません。
頼んでいないから来ないだけ、ということが多い。
1つ目の山、伸びている先に行ったとき、帰りぎわに一言だけ足します。
「近くで、うちみたいなところを探してる店、ご存じないですか」
これを20軒で言えば、1軒か2軒は名前が出ます。
新規開拓の看板を掲げるより、この一言のほうが早い。
この一言が言えない社長もいます。
物乞いのようで嫌だ、という感覚です。
ですが、頼まれた側からすると、頼りにされた話でもあります。
20年買ってくれている先なら、なおさらです。
まとめ
客が高齢化して減っていくのは、営業の失敗ではありません。
商圏が狭い商売に共通して起きていることです。
やることは3つ。
名簿を、伸びている・落ちている・止まっているの3つに分ける。
落ちている先の上位10軒に、売り込まずに聞きに行く。
伸びている先には、帰りぎわに紹介を頼む。
38軒は戻りません。
ですが、残りの162軒の中に、次の38軒の芽があります。
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