AIを使える社員が1人しかいない会社へ。社内で教え合う30分の勉強会をAIで組む

AIを使える社員が1人しかいない会社へ。社内で教え合う30分の勉強会をAIで組む 仕事効率化・副業

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客室が19の温泉旅館で、AIを仕事に使っているのは、フロントの予約係の34歳だけです。

英語の問い合わせメールの返事。キャンセル待ちのお客への案内文。宴会の席次表の下書き。

メールを貼るときは、お客の名前と部屋番号を先に消してから入れています。

去年の冬から、彼の机には、ほかの係からの頼まれごとが付箋で貼られるようになりました。

「これ、AIで英語にしといて」

「お品書きの説明、いい感じにして」

付箋は、多い週で11枚。

彼が休みの日は、英語のメールが翌日まで返せません。

「教えてあげて」では、教える時間が取れない

社長が最初に考えたのは、「みんなに教えてやってくれ」と頼むことでした。

予約係は「いいですよ」と言いました。

ところが、教える時間がどこにもありません。

朝は朝食と送り出し、昼は掃除と仕込み、夕方からはチェックインと夕食。

手が空いたときに隣で教えようとすると、相手のほうが手が空いていない。

「時間があるときに」は、ひと月たっても一度も来ませんでした。

教え合いを続けるには、日と時間と長さを、先に決めてしまうしかありません。

この旅館なら、チェックアウトの片付けが終わって、チェックインの準備に入るまでの、火曜の14時から14時半。

30分にしたのは、それ以上だと、たいてい誰かが仕事に呼ばれて抜けるからです。

中身は、それぞれの係の仕事から決める

勉強会というと、最初に「AIとは何か」の説明を聞かせたくなります。

30分のうち15分をそれに使うと、自分のスマホを触る時間が残りません。

お題は、それぞれの係が実際に困っている仕事から1つずつ取ります。

社長は、各係に紙を1枚ずつ回して、「最近、時間がかかって面倒だった書きもの」を1行で書いてもらいました。

戻ってきたのは、こういう行です。

仲居の係からは「外国のお客に、夕食の時間と場所を伝える紙」。

売店からは「新しく入れたお菓子の、手書きのポップ」。

調理場からは「仕入れ先に出す、注文の変更のファクス」。

この紙と、旅館の大まかな様子を、AIに渡して30分の流れを組ませます。

使うAIは、予約係がふだん使っているものに、全員そろえます。

画面の形が人によって違うと、教える側が隣の画面を見ても、どこを押せばいいか言えなくなります。

30分の勉強会の流れを頼む文:
客室19の旅館で、社員どうしでAIの使い方を教え合う勉強会を開く。
1回30分。教えるのは、ふだんからAIを使っている予約係の1人。
参加するのは、AIをほとんど使ったことのない3〜4人。全員が自分のスマホで同じAIを使う。
下に、係ごとの「時間がかかって面倒だった書きもの」を並べる。
1回目に使うお題を1つ選び、30分の流れを分単位で書くこと。
説明を聞く時間は5分まで。残りは、参加する人が自分の指で入力する時間にすること。
教える人が、参加する人のスマホに触らずに済む進め方にすること。

返ってきた流れを、旅館の事情で組み替える

AIが出してきた流れは、こうでした。

最初の5分で、教える人が自分のスマホで1回やって見せる。

次の15分で、全員が同じお題を自分で打つ。

最後の10分で、出てきた答えを見せ合い、おかしい所を探す。

形は悪くありません。

ただ、最初のお題に「外国のお客への夕食の案内」を選んできたのは、この旅館では重すぎました。

英語の文が合っているかを、その場で見られるのは予約係1人。4人分の英語を30分で見るのは無理があります。

見られない人に英語のお題を最初に出すと、「AIの言うことをそのまま信じる」練習になってしまいます。

社長は、1回目のお題を売店のポップに替えました。

日本語なら、出てきた文がおかしいかどうかは、誰でも読めば分かります。

売店の係がAIに渡すのは、「くるみの入った最中、6個入り、1,080円、日持ち10日」くらいのメモ。

見せ合いでは、返ってきた文とこのメモを並べて、メモに無い言葉が混じっていないかを読みます。

見つけた人は、「その1行を消して」と自分でAIに打ち返す。直させ方まで自分の指で覚えます。

勉強会の決まりは、紙に3行だけ書いて、休憩室の壁に貼りました。

教える人は、人のスマホに触らない。

お客の名前、部屋番号、予約の中身は、AIに入れない。

分からないことは、その場で聞く。後で個別に聞かない。

1行目がいちばん守りにくい決まりです。

相手が迷っていると、教える側はつい「貸して」と言って、自分で打ってしまう。

そうすると、その日はできても、次の日に1人で開いたとき、どこを押したかを本人が覚えていません。

1回目に来なかった人

1回目の火曜、休憩室に集まったのは、予約係を入れて4人でした。

声をかけたのは5人。来る予定だった板長が、仕込みの途中で手が離せないと言って、顔を出しませんでした。

板長は60代で、携帯は折りたたみのものを使っています。

仕事が本当に手を離せなかったのか、ほかに理由があったのかは、社長にも分かりません。

翌日の昼、社長は調理場をのぞいて、板長に声をかけました。

「4回目のお題、仕入れの注文のファクスなんだけど」

「あれは、手で書いたほうが早いですよ」

「書いたのを、AIに読みやすく直させるって話でね」

「直すほど長い文じゃないんで」

板長は、まな板から目を上げませんでした。

社内の勉強会は、こうして1人ずつ欠けていくことが多いものです。

1回目に来なかった人は、2回目には「いまさら」と思って来にくい。

2回目に1人呼ばれて抜ければ、3回目は3人を待つあいだに10分が過ぎます。

社長は、人数がそろうのを待たないことにしました。

14時になったら、そこにいる人だけで始める。休んだ人には、その日に使った頼む文を、壁の決まりの紙の下に貼っておく。

板長を勉強会に呼び直すのは、やめました。

回ごとに、教える人を替えていく

続かないもう1つの理由は、教える側の疲れです。

予約係が毎回教えると、勉強会の30分がそのまま彼の仕事に積み上がり、付箋の宛先も彼のままです。

そこで、教わった人が次の回で教える側に回る予定を、最初から組みました。

1回目は予約係が、売店のポップのお題で教える。

2回目は、1回目に教わった売店の係が、同じポップのお題を仲居の係に教える。

3回目は、英語の夕食の案内。ここだけは予約係が戻って、英語の答え合わせに付く。

4回目は、調理場のファクス。教える人は、3回目までの様子を見て決める。

予定表もAIに作らせました。

「教える人と教わる人の組み合わせを4回分。同じ人が2回続けて教えないように。予約係が教えるのは1回目と3回目」と頼むと、表の形で返ってきます。

表は、休憩室の決まりの紙の隣に貼りました。

予約係の机に貼られていた付箋は、捨てずにダブルクリップで留めて、引き出しに入れてあります。

「お品書きの説明」「英語にしといて」と、係の名前つきで並んだ付箋の束は、5回目から先のお題の候補です。

予定表の4回目の欄には、お題だけが書いてあります。

教える人と教わる人の欄は、まだ空いています。

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登場する人と会社に、実在のモデルはありません。アイキャッチのイラストはAI生成です。

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