経理の佐々木さんが、来月から入院することになりました。
2週間ほどだそうです。
社長は「お大事に」と言ったあと、事務所に戻って青くなりました。
支払日が、その2週間のど真ん中にあります。
誰がやるのか、そもそも何をやるのかを、社長が知らない。
この記事は、その状態を1か月で抜けるための手順です。
登場する会社に実在のモデルはありません。
「その人が辞めたら終わる」は、実際に会社を終わらせている
人が足りなくて潰れる会社は、増えています。
東京商工リサーチの集計では、2025年の「人手不足」倒産は397件でした。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 件数 | 397件(過去最多) |
| 前年比 | 35.9%増 |
集計期間は2025年1月から12月。負債総額1,000万円以上の倒産が対象です。
出典: 東京商工リサーチ「2025年の『人手不足』倒産は過去最多の397件」(2026年1月7日公表)(https://www.tsr-net.co.jp/data/detail/1202275_1527.html)
この数字を見て、多くの社長は現場の人手を思い浮かべます。
職人が採れない、ドライバーがいない、といった話です。
ですが、実際に会社を止めるのは事務方が抜けたときのほうが早い。
現場は1人抜けても、他の職人がなんとかします。
支払は、誰もなんとかできません。
振込のパスワードも、佐々木さんしか知りません。
取引先ごとの締め日も、頭の中にあります。
2週間止まると、支払遅れが同時に何件も起きます。
手順書を書かせるのではなく、しゃべってもらう
「手順書を作っておいて」と頼んだことがある社長は多いと思います。
そして、たいてい出てきません。
本人がサボっているわけではありません。
12年やっている仕事は、本人の中で言葉になっていないからです。
「まず何をしますか」と聞かれても、「まあ、いつもの流れで」としか出てこない。
だから、書かせるのをやめます。
やり方はこうです。
スマホの録音アプリを起動して、社長が横に座る。
「月末の3日間、何をしてるか順番に教えてください」と聞いて、しゃべってもらう。
20分で十分です。
録音を嫌がる人もいます。
そのときは、社長がメモを取りながら聞けば足ります。
あとで、そのメモをそのままAIに打ち込みます。
それを文字起こしして、AIに整理させます。
手順書を作るのは本人の仕事ではなく、AIの仕事になります。
経理担当者に、月末月初の作業を口頭で説明してもらった記録を貼ります。
これを、本人以外でも動ける形に整理してください。
【文字起こし】
(ここに録音の文字起こしを貼る)
次の形で出してください。
1. 日付ごとの作業カレンダー。「何日に」「何を」「どこを見て」「誰に渡すか」の4列
2. 期限が決まっている作業だけを抜き出した一覧(支払日、給与日、納付期限など)
3. 説明の中で言葉が足りず、他の人には分からない箇所。質問の形で列挙
専門用語は残したまま、注釈をつけてください。
3番の「言葉が足りない箇所」が肝です。
本人が当たり前すぎて飛ばしたところを、AIが拾ってくれます。
「いつものファイル、とありますが、どのファイルですか」
「銀行に行く、とありますが、どの口座でどの手続きですか」
この質問リストを持って、もう一度20分しゃべってもらう。
2周で、だいたい形になります。
完璧を目指さないでください。
8割書けていれば、残りは電話で聞けます。
全部やらない。期限があるものだけ先に
経理の仕事を全部手順書にしようとすると、また止まります。
最初にやるのは、期限があるものだけです。
支払日。給与日。社会保険の納付。源泉所得税の納付。
遅れると相手に迷惑がかかるか、延滞金がつくものです。
逆に、多少遅れても誰も困らない作業は後回しでいい。
先ほどのプロンプトの2番で、その一覧が出てきます。
その一覧を印刷して、経理の机の壁に貼る。
それだけで、佐々木さんが2週間いなくても、社長が電話で確認しながら回せる状態になります。
データで持つより、紙のほうがいい。
本人がいないとき、パソコンが開けないことがあります。
AIが入りやすいのは、実は事務のほう
中小企業基盤整備機構の調査に、業務分野別のAI導入率が出ています。
| 業務分野 | 導入率 |
|---|---|
| 総務・管理部門 | 68.3% |
| 営業・販売・サービス部門 | 60.3% |
| 経営・企画部門 | 58.5% |
| 製造・生産部門 | 34.9% |
調査概要: 全国の中小企業10,000社に配布、有効回答1,647社(2025年11月17日〜12月12日)。AIを導入済みの企業における業務分野別の割合です。
出典: 中小企業基盤整備機構「中小企業のAI等の利活用に係る実態調査」(2026年3月)(https://www.smrj.go.jp/research_case/questionnaire/fbrion0000002pjw-att/202603_AI_point.pdf)
いちばん高いのが総務・管理部門で68.3%。
製造・生産部門は34.9%で、半分ほどです。
AIというと工場の検査装置を思い浮かべますが、実際に入っているのは事務所のほうです。
1人しかいない経理は、いちばん危ない場所であると同時に、いちばんAIが効く場所でもあります。
本人に切り出すときの言い方
ここを間違えると、全部止まります。
「手順書を作って」と言うと、自分の仕事を取られると受け取られることがあります。
12年ひとりでやってきた人にとって、その警戒は当然です。
言い方はこうです。
「佐々木さんが休むとき、俺が困らないようにしたい。教えてもらえますか」
主語を社長にする。
あなたを置き換えるためではなく、あなたが安心して休めるようにするため。
実際、手順書ができて困るのは本人ではありません。
いちばん助かるのは、有給を取るときの本人です。
12年間、まとまった休みを取っていないかもしれません。
手順書は、そのための道具でもあります。
まとめ
やることは4つです。
月末の作業を20分しゃべってもらって録音する。
AIにカレンダー化させる。
足りない部分を質問リストにして、もう20分聞く。
期限のある作業だけ抜き出して、壁に貼る。
合計40分の会話で、会社が止まらなくなります。
入院が決まってから始めると、間に合いません。
今月の月末に、椅子を1つ持っていって隣に座ってください。
属人化をほどきたい方へ: YouTubeチャンネル「社長のAI参謀」では、中小企業の社長向けにAIの使い方を動画で解説しています。
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